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ひな祭りの夜に

今回のお話は、ネッ友のこしろ毬さんからいただいたSSをもとに構成させていただきました。こしろさん、ステキなお話をありがとうございました。

都会(まち)の喧騒を離れた裏通りに、その店はある。
バー「ピーチ・ハート」。気配り抜群でしっかり者の美形マスター趙雲氏と、ちょっぴり気の弱い天然癒し系のアルバイト姜維くんが切り盛りする、小さなカウンターバー。
さて今夜は、どんな客が訪れるのだろうか……。


◆◇◆◇

春は別れの季節であるが、また出会いの季節でもある。
今年の春は、どんな出会いが待っているんだろう。そんなトキメキも、この季節ならではの気分かもしれない。
今日は、3月3日、ひな祭りだ。
夜になるとまだまだ肌寒いけれど、ぼく(姜維)がアルバイトをしている小さなバー「ピーチ・ハート」でも、カウンターに咲き初めの桃の枝が添えられ、すっかり春めいた気配が漂っていた。

ひな祭りといっても、この日も、店内は変わり映えしない顔ぶれだ。
マスターの趙雲さんとぼく、そしてカウンターの前では、なじみ客である孔明さん、張飛さんが、まるで我が家にいるかのような顔をしてくつろいでいた。
「殺風景な店でも、こうして花があると気持ちが安らぐわよねえ、やっぱり」
「なに言っているんですか、孔明さん。いつも、もっと派手な花に囲まれてるくせに」
しみじみと言う孔明さんに、ぼくはすかさず突っ込みを入れた。
「無粋ね〜。こういう風情もいいなって言ってんのよ。空気読みなさいよ、あんた」
漫才みたいなぼくたちのやりとりを、趙雲マスターも苦笑交じりで見ている。もしかして僕って、お笑いの才能あるのかな?
その時ドアが開き、ふわりと艶めいた春風とともに、一人の男が入ってきた。
「あ、いらっしゃいませ!」
ぼくの呼びかけに軽く会釈したその人は、静かに空いているカウンター席に座った。そして、おもむろにサングラスを外す。
「あっら〜、いい男じゃない♪」
孔明さんがつぶやくように言った横で、ぼくは「あっ」と小さな声をあげた。
(もしかして、あの人は……?)

「いらっしゃいませ。何にいたしましょう?」
マスターが声をかけると、
「……じゃ、モスコミュールを」
彼は顔を上げ、かすかに微笑みながら応えた。
ちょっと鋭さを備えていながらも、その笑顔は優しい。
かしこまりました、と言おうとしたマスターは、その人の顔を見てハッと目を見開いた。
「あなたは……!」
「え?」
驚いてマスターを見つめる彼の横に、ぼくも近づいて、
「あの、あの時はありがとうございました。ちゃんとお礼も言えないままで……」
頭を下げたのだが、それでも彼はきょとんとしている。
「……え〜っと。俺、なにかしたかな?」
「一ヶ月ほど前にここに来て下さったとき、この姜維くんが客に絡まれていたのを、あなたが助けて下さったじゃないですか」
マスターがにこやかに話しかけた。
「そうでしたっけ?」(←ホントに憶えてない……苦笑)

そう。あの時、酔っぱらってクラブかキャバレーと勘違いしたのか、ぼくに「家まで送れ」と無理難題の注文をしてきた客がいたのだ。
マスターもできるだけ丁寧に断っていたのだけど、もともと下心があったのか、思い通りにならないとわかると、男は突然ぼくに殴りかかってきた。
男のパンチがぼくの顔面に炸裂する、という寸前のところで、その客の手首をつかんだのがこの人だった。
「せっかくこんないい店で、気持ちよく飲んでいる人もいるというのに、雰囲気を壊すようなことをするな」
静かな口調に、かえって凄味がある。
「……なんなら、行くべき所に行って話をつけようか?」
冷たく笑うその眼光にギョッとして、とたんに酔いが醒めたのか、その客は慌てて勘定を置いて逃げていった。
「まったく、困った客だ」
その人は、ぼくに軽くウインクすると、「大丈夫か」と声をかけてくれた。
そして、何事もなかったのように立ち上がり、
「ごちそうさん。ここのカクテル、美味かったよ」
と、爽やかに微笑んだ。
「あ……。ありがとうございます」
お代を頂きながら、ばくは半分放心状態になっていた。
その人は、さっきの表情とはうって変わった優しい目で、「それじゃ、また来させてもらうな」と言うと、来た時と同じように静かに店を出ていった。
そこで我に返ったぼく。
「あっ……ま、待ってください! お名前を……!」
慌てて追いかけたが、もうそこに彼の姿はなかった――。

「またお会いできてよかったです。あの、改めてお名前を教えていただけませんか?」
ぼくは、おずおずと切り出した。あの時は名前を聞けずに、彼は帰ってしまったから。
彼がそれに応えようとしたとき、再びカララン……とバーのドアが開いた。
いらっしゃいませ、とマスターが目を向けた先には、20代前半の精悍で整った顔つきをした青年が立っていた。
「……まあ〜! 今夜は粒ぞろいのお客ばかりじゃない!」
すっかり孔明さんもミーハーになってしまっている。
「孔明さん、落ち着きなって……(^^;)」
張飛さんは、すっかり酔いがさめてしまったらしい孔明さんの興奮をなだめるのに必死だ。
「お、佑! こっちこっち」
彼が手を振って青年を呼ぶ。
「ごめん、飛鷹さん。剣道の練習が長引いちゃって」
佑と呼ばれた彼は、ばつが悪そうに笑う。
「道場の跡取りだもんな。頑張ってるみたいじゃないか」
「まあね……って、囲まれてるみたいだけど、どうしたの?」
「いや、それがな……」
飛鷹という名らしいその人は、カリカリと頬を指でかきながら、どう言ったらいいか困った表情を浮かべている。その言葉を引き取ったのはマスターだった。
「実は先日、うちの者が、この方に助けられましてね。そのお礼を言っていたところなのですよ」
――え? という顔の佑さん(かな?)に、ぼくが事情を説明した。
「そうですか、そんなことが。……あ、すみません、申し遅れました。ぼくは土御門佑介といいます。で、彼が……」
「飛鷹光一郎です。よろしく」
へえ〜。「土御門」って変わった苗字……。ぼくよりちょっと上、かな? 飛鷹さんという人も、よく見るとホントかっこいい。あの時の雰囲気と言い、何の仕事をやっている人なんだろう?

「飛鷹光一郎?」
今まで黙っていた張飛さんが、呟くように言った。
「もしかしてあんた、あの私立探偵の飛鷹光一郎さんかい? 警察あがりの」
「……よくご存じですね」
「こちとら、だてにフリーライターやってないからな。数々の殺人事件を解決したって有名だぜ」
「ええ〜、そうなの!?」
孔明さんが身を乗り出して言う。マスターもぼくも、思わず顔を見合わせた。
それって、つまり? この店が、何か事件と関係あるとか……ってことは、まさかないよね。
「えっと。じゃあ、あなたが飛鷹さんの助手を?」
ぼくの質問に、彼……佑介さんは、笑いながら答えてくれた。
「違う違う。俺はこの春に卒業予定の、一介の大学生だよ」
「前祝いに、ここで会おうと言っていたんだよな」
二人は、改めて温かい笑みを交わした。
「それはおめでたいですね。では、先日のお礼も兼ねてここでパーティ、なんてのはいかがですか?」
「ええ?」
佑介さんも飛鷹さんも、マスターの提案にビックリしてる。そりゃ、お客さんも孔明さんと張飛さんだけだしね。すでに貸切状態なんだけど(あ、いつものことか)。
「そんな、お礼なんてとんでもない。たいしたことしてないのに」
「それでは私の気持ちが収まらないというものですよ。……ぜひ」
慌てる飛鷹さんに、穏やかな表情でありながら、マスターの雰囲気は有無を言わせないようなところがある。これが怖かったりするんだけど。
「さんせーい! 思いっ切り飲んで賑やかにいきましょうよ♪」
孔明さんは既に「超」その気になっている。大丈夫かなあ。
その場の雰囲気に押されたのか、苦笑混じりに飛鷹さんが言った。
「……じゃあ、お言葉に甘えるか、佑。もうひとつめでたいこともあるしな」
「それはまだ先のことだよ」
「もうひとつって?」
張飛さんが興味津々という感じで、しつこく佑介さんに聞いている。やっぱり、ルポライターの血は争えないらしい。
「えっと……。なんというか(^^;)」
あれ? 佑介さん、何気に顔が赤いぞ?
「いえね。こいつ、大学を卒業したら結婚するんですよ。一応、自分が仲人を勤めさせてもらうんですけど」
「結婚!?」
「そりゃまた早い……」
ぼくと張飛さんがびっくりしている横で、孔明さんがボソッとつぶやいた。
「仲人……というと、じゃあ、あなたって……?」
「ええ、既婚です。妻と3歳の息子がいますよ」
笑顔で答える飛鷹さんに、孔明さんが肩を落としたように見えたのは、気のせい?

「それじゃ今度は、奥様方もご一緒に、ぜひ皆さんでいらしてください。いつでも貸切でサービスさせていただきますよ」
マスターが眼鏡越しに、にっこりと笑う。
(貸切っていうか……。いつも閑古鳥が鳴いてるだけでしょうが)
マスターってば、太っ腹っていうより、単ににぎやかなのが好きなだけなんじゃないかと思う。まあ、そういうぼくも、賑やかなのは嫌いじゃないけどね。
さて、今年も「ピーチ・ハート」では、いろんな人たちとの出会いがありそうだ。
願わくば――、佑介さんにあやかって、色っぽい話なんかも少しはあれば、ぼくとしてはとってもうれしいんだけど。

<了>


◆モスコミュール◆
「モスコミュール」は、1940年代にアメリカはハリウッドのレストランで生まれた。その口当たりの強さから、“モスクワのラバ(強情者)”という名前がつけられたという。
ウォッカベースにライムジュースを加え、それをジンジャエールで割ったものがポピュラーなスタイルだが、本来はジンジャーエールではなくジンジャービアを使うのが正式だとか。日本ではジンジャービアが手に入りにくいため、ジンジャエールで代用しているわけだ。
“本物”のモスコミュールは、銅製マグカップ、スミノフウォッカ、ジンジャービアーの3つのアイテムがそろって、初めて完成する。
【作り方】
よく冷やした銅製マグカップに、スミノフウォッカ45mlとライムジュース15mlを氷とともに入れ、ジンジャービアーを満たす。軽くステアし、ライムスライスを飾る。

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