スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

| - | | - | - |

姜維くんの憂鬱




「マスター、近頃やたら店に来るあの人たちって、いったい何者なんでしょう?」
おろおろしている僕(アルバイトの姜維です)に向かって、バー『ピーチ・ハート』のマスター趙雲さんは、落ち着き払って答えた。
「――お客さま、ですよ」
「そんなことは分かってますって。僕が言いたいのは……」
「たとえ何者であっても、うちに来てお酒を飲んでくださるのなら、大切なお客さまですよ?」
だめだ、こりゃ。
(うう〜〜。もう、じれったいなあ、マスターは)
僕が見つめる先には、大勢の怪しげな男たち(たまに女性もいるけど)が、ビールを片手にわいわい盛り上がっている。
それだけなら、別に珍しくもない光景なんだけど。
毎晩、毎晩、入れ替わり立ち代わりやってくるその客たちは、どう見ても普通じゃない。なんだか戦国時代みたいないでたち(コミケ帰りのコスプレ集団かと思った……爆)で、ぶっそうな武器(←おいおい;;)みたいなものとか持ってるし。
言葉遣いや態度も横柄で、他の客のことなんて、てんで眼中にないって感じ。
この前なんて、本田ナントカって人と島ナントカっていう人が鉢合わせして、すごくヤバい雰囲気だったんだ。前田ナントカって、これも相当にイカレた感じの人が間に入って、なんとか収まったんだけどね。
「マスターは人がいいからねえ」
カウンターでウーロン茶割りのグラスをなめていた張飛さんが、ため息をついた。
「そのうちお店乗っ取られちゃうわよ」
孔明さんも浮かない表情だ。
二人とも、静かな『ピーチ・ハート』(←閑古鳥とも言う)の夜が懐かしい、といった顔で、趙雲マスターを見つめた。
「ねえ、夏侯探偵社に調査してもらいます?」
と、僕。もしかして、怪しい宗教団体が東京征服を狙って、ここをその拠点にしようと考えているかもしれないじゃないか。wwww
「馬鹿なこと言ってないで、早く注文を聞いてきて」
はあ。人がいいっていうより、どこか神経がずさんなんだと思うね、うちのマスターは。
ほんとに大丈夫か?
管理人は、僕たちを見捨てたりしないのか?
(以下、続……きません)


――姜維くんったら。そんなに心配しなくても大丈夫だよ、たぶん。……たぶん?

瞬間湯沸し器な管理人は、ただ今戦国時代に夢中です。
でも、大丈夫。趙雲マスターや姜維くんのこと、決して忘れてるわけじゃないからね。
流行り病のようなこの熱がもう少し落ち着くのを、気長に待っていてください。
(で、待ってると何かいいことあるわけ?)←姜維

らら〜〜♪
トップのイラスト(アイコン)は、三成に絵本の読み聞かせをしているさこにゃん。
めっちゃ、かわええ〜〜。「ねこの缶詰」さんからお借りしました。


お気に召したらぽちっと押してやってください
人気ブログランキングに登録しています。

ひな祭りの夜に

今回のお話は、ネッ友のこしろ毬さんからいただいたSSをもとに構成させていただきました。こしろさん、ステキなお話をありがとうございました。

都会(まち)の喧騒を離れた裏通りに、その店はある。
バー「ピーチ・ハート」。気配り抜群でしっかり者の美形マスター趙雲氏と、ちょっぴり気の弱い天然癒し系のアルバイト姜維くんが切り盛りする、小さなカウンターバー。
さて今夜は、どんな客が訪れるのだろうか……。


◆◇◆◇

春は別れの季節であるが、また出会いの季節でもある。
今年の春は、どんな出会いが待っているんだろう。そんなトキメキも、この季節ならではの気分かもしれない。
今日は、3月3日、ひな祭りだ。
夜になるとまだまだ肌寒いけれど、ぼく(姜維)がアルバイトをしている小さなバー「ピーチ・ハート」でも、カウンターに咲き初めの桃の枝が添えられ、すっかり春めいた気配が漂っていた。

ひな祭りといっても、この日も、店内は変わり映えしない顔ぶれだ。
マスターの趙雲さんとぼく、そしてカウンターの前では、なじみ客である孔明さん、張飛さんが、まるで我が家にいるかのような顔をしてくつろいでいた。
「殺風景な店でも、こうして花があると気持ちが安らぐわよねえ、やっぱり」
「なに言っているんですか、孔明さん。いつも、もっと派手な花に囲まれてるくせに」
しみじみと言う孔明さんに、ぼくはすかさず突っ込みを入れた。
「無粋ね〜。こういう風情もいいなって言ってんのよ。空気読みなさいよ、あんた」
漫才みたいなぼくたちのやりとりを、趙雲マスターも苦笑交じりで見ている。もしかして僕って、お笑いの才能あるのかな?
その時ドアが開き、ふわりと艶めいた春風とともに、一人の男が入ってきた。
「あ、いらっしゃいませ!」
ぼくの呼びかけに軽く会釈したその人は、静かに空いているカウンター席に座った。そして、おもむろにサングラスを外す。
「あっら〜、いい男じゃない♪」
孔明さんがつぶやくように言った横で、ぼくは「あっ」と小さな声をあげた。
(もしかして、あの人は……?)

「いらっしゃいませ。何にいたしましょう?」
マスターが声をかけると、
「……じゃ、モスコミュールを」
彼は顔を上げ、かすかに微笑みながら応えた。
ちょっと鋭さを備えていながらも、その笑顔は優しい。
かしこまりました、と言おうとしたマスターは、その人の顔を見てハッと目を見開いた。
「あなたは……!」
「え?」
驚いてマスターを見つめる彼の横に、ぼくも近づいて、
「あの、あの時はありがとうございました。ちゃんとお礼も言えないままで……」
頭を下げたのだが、それでも彼はきょとんとしている。
「……え〜っと。俺、なにかしたかな?」
「一ヶ月ほど前にここに来て下さったとき、この姜維くんが客に絡まれていたのを、あなたが助けて下さったじゃないですか」
マスターがにこやかに話しかけた。
「そうでしたっけ?」(←ホントに憶えてない……苦笑)

そう。あの時、酔っぱらってクラブかキャバレーと勘違いしたのか、ぼくに「家まで送れ」と無理難題の注文をしてきた客がいたのだ。
マスターもできるだけ丁寧に断っていたのだけど、もともと下心があったのか、思い通りにならないとわかると、男は突然ぼくに殴りかかってきた。
男のパンチがぼくの顔面に炸裂する、という寸前のところで、その客の手首をつかんだのがこの人だった。
「せっかくこんないい店で、気持ちよく飲んでいる人もいるというのに、雰囲気を壊すようなことをするな」
静かな口調に、かえって凄味がある。
「……なんなら、行くべき所に行って話をつけようか?」
冷たく笑うその眼光にギョッとして、とたんに酔いが醒めたのか、その客は慌てて勘定を置いて逃げていった。
「まったく、困った客だ」
その人は、ぼくに軽くウインクすると、「大丈夫か」と声をかけてくれた。
そして、何事もなかったのように立ち上がり、
「ごちそうさん。ここのカクテル、美味かったよ」
と、爽やかに微笑んだ。
「あ……。ありがとうございます」
お代を頂きながら、ばくは半分放心状態になっていた。
その人は、さっきの表情とはうって変わった優しい目で、「それじゃ、また来させてもらうな」と言うと、来た時と同じように静かに店を出ていった。
そこで我に返ったぼく。
「あっ……ま、待ってください! お名前を……!」
慌てて追いかけたが、もうそこに彼の姿はなかった――。

「またお会いできてよかったです。あの、改めてお名前を教えていただけませんか?」
ぼくは、おずおずと切り出した。あの時は名前を聞けずに、彼は帰ってしまったから。
彼がそれに応えようとしたとき、再びカララン……とバーのドアが開いた。
いらっしゃいませ、とマスターが目を向けた先には、20代前半の精悍で整った顔つきをした青年が立っていた。
「……まあ〜! 今夜は粒ぞろいのお客ばかりじゃない!」
すっかり孔明さんもミーハーになってしまっている。
「孔明さん、落ち着きなって……(^^;)」
張飛さんは、すっかり酔いがさめてしまったらしい孔明さんの興奮をなだめるのに必死だ。
「お、佑! こっちこっち」
彼が手を振って青年を呼ぶ。
「ごめん、飛鷹さん。剣道の練習が長引いちゃって」
佑と呼ばれた彼は、ばつが悪そうに笑う。
「道場の跡取りだもんな。頑張ってるみたいじゃないか」
「まあね……って、囲まれてるみたいだけど、どうしたの?」
「いや、それがな……」
飛鷹という名らしいその人は、カリカリと頬を指でかきながら、どう言ったらいいか困った表情を浮かべている。その言葉を引き取ったのはマスターだった。
「実は先日、うちの者が、この方に助けられましてね。そのお礼を言っていたところなのですよ」
――え? という顔の佑さん(かな?)に、ぼくが事情を説明した。
「そうですか、そんなことが。……あ、すみません、申し遅れました。ぼくは土御門佑介といいます。で、彼が……」
「飛鷹光一郎です。よろしく」
へえ〜。「土御門」って変わった苗字……。ぼくよりちょっと上、かな? 飛鷹さんという人も、よく見るとホントかっこいい。あの時の雰囲気と言い、何の仕事をやっている人なんだろう?

「飛鷹光一郎?」
今まで黙っていた張飛さんが、呟くように言った。
「もしかしてあんた、あの私立探偵の飛鷹光一郎さんかい? 警察あがりの」
「……よくご存じですね」
「こちとら、だてにフリーライターやってないからな。数々の殺人事件を解決したって有名だぜ」
「ええ〜、そうなの!?」
孔明さんが身を乗り出して言う。マスターもぼくも、思わず顔を見合わせた。
それって、つまり? この店が、何か事件と関係あるとか……ってことは、まさかないよね。
「えっと。じゃあ、あなたが飛鷹さんの助手を?」
ぼくの質問に、彼……佑介さんは、笑いながら答えてくれた。
「違う違う。俺はこの春に卒業予定の、一介の大学生だよ」
「前祝いに、ここで会おうと言っていたんだよな」
二人は、改めて温かい笑みを交わした。
「それはおめでたいですね。では、先日のお礼も兼ねてここでパーティ、なんてのはいかがですか?」
「ええ?」
佑介さんも飛鷹さんも、マスターの提案にビックリしてる。そりゃ、お客さんも孔明さんと張飛さんだけだしね。すでに貸切状態なんだけど(あ、いつものことか)。
「そんな、お礼なんてとんでもない。たいしたことしてないのに」
「それでは私の気持ちが収まらないというものですよ。……ぜひ」
慌てる飛鷹さんに、穏やかな表情でありながら、マスターの雰囲気は有無を言わせないようなところがある。これが怖かったりするんだけど。
「さんせーい! 思いっ切り飲んで賑やかにいきましょうよ♪」
孔明さんは既に「超」その気になっている。大丈夫かなあ。
その場の雰囲気に押されたのか、苦笑混じりに飛鷹さんが言った。
「……じゃあ、お言葉に甘えるか、佑。もうひとつめでたいこともあるしな」
「それはまだ先のことだよ」
「もうひとつって?」
張飛さんが興味津々という感じで、しつこく佑介さんに聞いている。やっぱり、ルポライターの血は争えないらしい。
「えっと……。なんというか(^^;)」
あれ? 佑介さん、何気に顔が赤いぞ?
「いえね。こいつ、大学を卒業したら結婚するんですよ。一応、自分が仲人を勤めさせてもらうんですけど」
「結婚!?」
「そりゃまた早い……」
ぼくと張飛さんがびっくりしている横で、孔明さんがボソッとつぶやいた。
「仲人……というと、じゃあ、あなたって……?」
「ええ、既婚です。妻と3歳の息子がいますよ」
笑顔で答える飛鷹さんに、孔明さんが肩を落としたように見えたのは、気のせい?

「それじゃ今度は、奥様方もご一緒に、ぜひ皆さんでいらしてください。いつでも貸切でサービスさせていただきますよ」
マスターが眼鏡越しに、にっこりと笑う。
(貸切っていうか……。いつも閑古鳥が鳴いてるだけでしょうが)
マスターってば、太っ腹っていうより、単ににぎやかなのが好きなだけなんじゃないかと思う。まあ、そういうぼくも、賑やかなのは嫌いじゃないけどね。
さて、今年も「ピーチ・ハート」では、いろんな人たちとの出会いがありそうだ。
願わくば――、佑介さんにあやかって、色っぽい話なんかも少しはあれば、ぼくとしてはとってもうれしいんだけど。

<了>


◆モスコミュール◆
「モスコミュール」は、1940年代にアメリカはハリウッドのレストランで生まれた。その口当たりの強さから、“モスクワのラバ(強情者)”という名前がつけられたという。
ウォッカベースにライムジュースを加え、それをジンジャエールで割ったものがポピュラーなスタイルだが、本来はジンジャーエールではなくジンジャービアを使うのが正式だとか。日本ではジンジャービアが手に入りにくいため、ジンジャエールで代用しているわけだ。
“本物”のモスコミュールは、銅製マグカップ、スミノフウォッカ、ジンジャービアーの3つのアイテムがそろって、初めて完成する。
【作り方】
よく冷やした銅製マグカップに、スミノフウォッカ45mlとライムジュース15mlを氷とともに入れ、ジンジャービアーを満たす。軽くステアし、ライムスライスを飾る。

人気ブログランキングへ
人気ブログランキングに登録しています。
気に入ってくださったら、ぽちっと押してやってください。
あなたの応援が、創作と元気の源です。

「クリスマスソングなんて聞こえない」おまけ

姜維くんのクリスマスSS、お楽しみいただけましたか(笑)。
さて、クリスマス・イブの顛末が気になるところですが、まだきちんと構想が練れているわけではないので、もう少し時間がかかりそうです。すみません。
ただ、大喬のお兄さんであるテレビ局のディレクターは、孫策のつもりで、もうすっかりキャラもアイコンも出来上がっています。実は、かなり以前からこのキャラは固まっていて、いつか出したいなあと考えていたんですよね。
孫策といえば周瑜がセットなのは当たり前(笑)…ってわけで、周瑜のキャラもしっかりできています。今をときめくアイドルスター周瑜くん。で、彼はどうやら孫策のことが好きらしい…。
次回のクリスマス・イブの夜完結編では、大喬・小喬に加えこのコンビが登場して、ますますシッチャカメッチャカなお話になりそうです。(^_^;)
乞う、ご期待!
では、本館より一足先に二人のアイコンをお見せしますね〜。

孫策
周瑜

お気に召したらぽちっと押してやってください
人気ブログランキングに登録しています。

クリスマスソングなんて聞こえない (3)

◆◇◆

その後、姜維がどこで何をしていたのかは誰にも分からない。ただ、携帯電話は一晩中不通になっていたようだ。
そして。
姜維が飛び出していった後の店内では――。


大喬が、血の気の引いた顔でおろおろしている。
「わっ、どうしよう。私、ひどく誤解させちゃったみたい」
「そりゃまあ、姜維くんにすればショックだわよ〜。彼、ああ見えて純情なんだから」
それまで黙ってカウンターに頬杖をついていた孔明が、大喬にあからさまな非難の目を向けた。
「ここでさんざん孔明さんを見てるのに、まだそっちに対して免疫ないのな?」
「バ〜カ。張飛さんはいつだって一言多いんだから」
相変わらず茶化してばかりいる張飛に、孔明は柳眉を逆立てる。
二人とも、大喬の兄というのが「そっち系」で、姜維のことを見初めた彼が、妹に橋渡しを頼んだのだと思い込んでいた。
「いえ、そうじゃなくて……。兄のこと、最初からもっとはっきり言えばよかったのに……」
しどろもどろになっている大喬の言葉を引き取ったのは、小喬だった。
「大喬お姉さまの兄貴って、毎朝テレビのディレクターやってんのよ」
「はあ?」
「その兄が作ってる番組で、街で見かけたイケメンの男のコを紹介するコーナーがあるんですけど……」
「あ、それ知ってる。あたし、毎週見てるわよ」
「もしかして、姜維に白羽の矢が立ったのか!」
思いがけない話の展開に、張飛も孔明もあっけにとられた。
「いえ、まだきちんと決まったわけじゃなくて――」
「ここのお店にかっこいいコがいる、っていう視聴者からの情報があったんだって」
「本当なら兄が正式に取材を申し込まなくちゃいけないんですけど。今すごく忙しくて時間が取れないから、代わりに見てきてくれないか、って頼まれたんです」
「なあんだ、そうだったんだ〜〜」
分かってみれば、驚くほど単純な話ではないか。
「じゃ、最初から、姜維の品定めをするだけのつもりで来たってことだな」
「ええ。それなのに私ったら、妙に思わせぶりな態度を取ってしまって……。姜維さん、びっくりされたでしょうね」
大喬は、本当にすまなそうに肩を落とした。
「びっくりしたっていうより、相当ショックだったみたいね。期待が大きかった分、落胆も激しかったのねえ」
(ほんとのこと言うと、私もちょっぴりショックだったのよ。姜維くんがノーマルなのは分かってたけど、ああもロコツに拒絶されちゃうとねえ……おネエさまはガックリだわ)
孔明は、ほうっと深いため息をついた。


「さあ、お客さま方。そんなところに立っていないで、こちらにお座りください」
趙雲マスターに勧められるまま、大喬と小喬はカウンターに腰を下ろした。
「これをどうぞ。気持ちが落ち着きますよ」
趙雲がタイミングよく二人の前に置いたのは、ホカホカと湯気を立てているグラスだった。
「これって、お酒?」
「ええ。『ホット・ラム・カウ』という名前の温かいカクテルです。身体が温まりますし、牛乳が入っているので胃にも優しいし、寒い夜にはぴったりでしょう?」
ふーん、と不思議そうな表情でグラスに口をつけた小喬が、弾けるような声を上げた。
「うん、おいしい! 大喬お姉さまも飲んでごらんなさいな」
「ええ、ほんとに。優しくて、ちょっと懐かしい味……」
心が癒されていくような温かい味わいに、大喬はいつしか涙ぐんでいた。
「大喬さん。さあ、もう気を取り直して――。きれいなお嬢様には、悲しい顔は似合いませんよ」
趙雲は、何とか大喬の気持ちを引き立てようとするのだが、彼女の顔は晴れなかった。
「でも、彼のこと、傷つけちゃいましたよね」
「大丈夫。ああ見えても、彼は打たれ強いですから(←マスターってば、それってどういう意味?)。それに、あなたが気に病むことじゃありませんよ」
「でも……」
「誤解なら、いつかは解けますから」
「そうだといいんだけど。誤解を解くチャンスがあるかしら」
「チャンスは作ればいいんです」
そう、誤解ならいつかは解ける。
そして、機会はいつか訪れる。このまま離れ離れになってしまうのでなければ。
さらには、きっかけが何であれ、二人の出会いがこれからどう進展していくか、それはまだ誰にも分からないのだから。
「イブの夜、もしよかったら、ここへお兄さまをお連れしていただく、というのはいかがでしょう? もちろん、大喬さん、小喬さんもご一緒してくださいね。こちらは姜維くんと私、それに張飛さんと孔明さんの四人で、貸切ということにしておきますから」
「え? そんな……いいんですか? クリスマス・イブなのに?」
「もちろんですよ」
趙雲の大胆な発言に、張飛と孔明は思わず顔を見合わせた。
「また始まったぜ」
「マスター、太っ腹〜〜♪」
ここ何年か、クリスマス・イブの「ピーチ・ハート」は貸切ばかりだ。去年は馬超組のロックコンサート。その前の年は孔明ひとりのために。
趙雲マスターが本当に太っ腹なのか、それとも全く商売っ気がないだけなのか、二十年付き合っても未だに分からない張飛だった。

(了)

◆ホット・ラム・カウ◆
ホワイトラム30ml、牛乳120ml、砂糖茶さじ1杯を厚手鍋に入れ、木杓子で混ぜながら弱火で温める。65〜70℃くらいが適温。耐熱グラスに注ぎ、シナモンスティックを添える。

趙雲マスター
趙雲「張飛さんや孔明さんが常連な時点で、採算なんてすでに度外視してますから(苦笑)」

人気ブログランキングへ
人気ブログランキングに登録しています。
気に入ってくださったら、ぽちっと押してやってください。
あなたの応援が、創作と元気の源です。

クリスマスソングなんて聞こえない (2)

げんなりして店内に戻ったぼくに、趙雲マスターから次々と仕事の指示が飛んだ。まるで、わざと忙しくさせてるみたいに。
まあ、そのおかげで、余計な気を遣わなくてもよくなったんだけどね。ぼくがせわしなく動いているものだから、張飛さんや孔明さんの冷やかしも来なくなったし。
そうこうしているうちに、客足が引き始め、12時をまわった頃には、常連の張飛さんと孔明さん、それに奥の女性二人組だけ、といういつもの静かな「ピーチ・ハート」の風景になった。
「さあて、もういいでしょう」
グラスを片付けていたマスターが、ぼくに目配せした。
「このカクテル、奥のテーブルに持っていって。私のおごりですから。あ、少しゆっくり話してきてもいいですよ」
「え?」
きょとんとするぼくに、マスターが軽くウインクする。
「張飛さんも孔明さんも身内みたいなものですから、もう気を遣わなくても大丈夫。それよりも、こんな時間まで待ってくださったお客さまに、しっかりサービスしてきてください」
「マスター……」
いつもながらあざやかな趙雲マスターの気配りに、じわっと胸が熱くなる。
なんでこの人は、こんなにかっこいいんだろう。やっぱりぼくとは格が違うんだ。(←いえいえ、単なる年の功:作者)
ぼくは、おずおずとマスターからカクテルを受け取り、ちょっとうきうきしながら奥のテーブルに運んだ。


「これ、マスターからのサービスです」
「きゃっ、うれしい〜〜」
ぼくがカクテルグラスとおつまみをテーブルに置くと、彼女たちは、黄色い歓声を上げた。
「それから、お客さまと少し話してきてもいいって、マスターのお許しが出ました」
「わっ、ほんと?」
「じゃ、どうぞ、ここに座ってくださいな」
大喬さんが、自分の座っている位置をずらして、ぼくに隣の席を勧めてくれた。
「失礼します」
律儀に断ってから、ぼくはソファの隅っこに腰を下ろした。
ここで働き始めてもう結構経つけれど、こんな風にお客さまの横に座るなんて初めてだ。やたら体が緊張してる。
ぼくは、思い切って大喬さんに話しかけた。
「こんなに遅くなって、大丈夫なんですか?」
大喬さんは、びっくりしたように顔を上げると、ぼくを見てにっこりと笑った。でも、言葉で答えてくれたのは小喬さんの方だ。
「うん、平気よ。アタシも大喬お姉さまも、家近いから。タクシーで帰ってもすぐだし」
「そうですか。それじゃ、どうぞ今夜はゆっくりしていってくださいね」
ええっと、それから……。一体、何を話せばいいんだろう?
ああ、何だか顔がにやけているのが自分でも分かる。だって、思いがけず、幸福の女神が突然目の前に降りてきて、宝くじが当たったよと告げられたみたいなものなんだから。
それからも、いろいろ他愛のないことをしゃべった気がするのだが、話の内容は上の空で、全く覚えていない。
ただ、大喬さんの指が細くてきれいだなとか、目を伏せると睫毛がすごく長いんだなとか、そんなことばかり考えていた。
そろそろ腰を上げなくちゃ、と思いかけた頃、改まった顔つきで大喬さんがぼくに言った。
「姜維さん。24日の夜、空いてますか?」
「はい?」
「もしよかったら……」

――おおお、これはもしかして、デートのお誘いかぁ? キタ━(´∀`)━!!

心臓がどくん、と音をたてる。
「――会ってほしい人がいるんです」
「え?」
意味が分からない。茫然と大喬さんの顔を見つめるぼくの顔は、ずいぶんと間抜けに見えたことだろう。
「実は、私の兄が、ぜひあなたに会いたいって……」
「お兄さん……ですか?」

どういうことだ? お兄さんって?
なんでだよぉ? なんで、ここで突然、兄貴が出てくるんだよ?
ぼくに会いたいっていうのは、あなたじゃなくて兄さんだったの?
それって、いったい――?

ぼくは、頭が真っ白になり、ふらふらとその場を離れた。
大喬さんが大声で何かを叫んでいたようだったけど、ぼくの耳には何も届かなかった。


どうやってカウンターまでたどり着いただろう。
孔明さんや張飛さんの視線がやけに痛い。二人とも押し黙ったまま何も言ってくれないのが、かえって辛かった。
「すみません、マスター。今日はこれで早引けさせてください」
やっとの思いでそれだけ言うと、ぼくはそそくさと裏へ入り、着替えもせずに上着を引っ掛けた。
マスターが心配そうにぼくの顔を覗き込む。
「早引けはいいけど、姜維くん、大丈夫ですか?」
「そんなに心配してくださらなくても、大丈夫ですよ」
我ながら説得力のない返事だなあと思いつつ、他にいい言葉も見つからない。
「俺、送っていってやろうか」
やけに優しい張飛さんの声が聞こえる。
猫なで声はやめてよ。よけいみじめな気持ちになってしまうから。
「平気です。ちゃんと帰れますから」
足早に店を出ようとするぼくに、大喬さんが駆け寄った。
「ごめんなさい。私、そんなつもりじゃ……」
今にも泣き出しそうな顔をして――。
(冗談じゃないよ。だったら、どんなつもりだったんだ?)
ぼくは小さく頭を下げると、黙ってドアを開け、一度も振り返らずに店を後にした。

小喬さん
小喬「大喬お姉さま、ファイト!」

(続く)

お気に召したらぽちっと押してやってください
人気ブログランキングに登録しています。

クリスマスソングなんて聞こえない (1)

都会(まち)の喧騒を離れた裏通りに、その店はある。
バー「ピーチ・ハート」。気配り抜群でしっかり者の美形マスター趙雲氏と、ちょっぴり気の弱い天然癒し系のアルバイト姜維くんが切り盛りする、小さなカウンターバー。
今夜も、ちょっと疲れた男たちが羽根を安めにやってくる……。


◆◇◆◇

(ああ、今年も残り少なくなってきたなあ)
12月も半ばを過ぎたある日。
アルバイト先のバー・ピーチハートへ向かう途中の道で、ぼく(姜維)は、すっかり暗くなった空を見上げてほっとため息をついた。
街はクリスマスのイルミネーションに飾られ、いつもの喧騒も心なしか華やいで聞こえる。すれちがう人たちの表情もどことなく楽しげだ。
ぼくはといえば、今年も取り立てて何ということもなく、また一年が過ぎようとしていた。
(結局今年も、カノジョできなかったしぃ……)
ふだんはたいして気にもならないのに、毎年クリスマスが近づくこの時期になると、ちょっと寂しい感傷的な気分にとらわれてしまうのはなぜだろう。


その夜、ピーチ・ハートはめずらしく客が多かった。常連客の張飛さんや孔明さん、時々足を運んでくれる馴染み客、忘年会の流れらしい初めての客まで、狭い店内は大賑わいだ。
中でも、そこだけ花が咲いたかのように華やかなのは、一番奥のテーブル席に陣取った二人の女性だった。
近くに勤めるOLだろうか。飲んで食べておしゃべりして、と思いっきり週末の夜を満喫している。
楽しそうにさんざめく彼女たちの様子を、ぼくは見るともなく眺めていた。
すると突然、二人のうち若い方のコが、ぼくに向かって手を上げた。
「すみませ〜ん。生ビールお代わりお願いします」
「はいっ」
自分でも、ちょっとテンション高いなと思うほどの声が出てしまい、さっそくカウンターに座っていた張飛さんに突っ込まれた。
「おっ、姜維くん。いい返事だねえ」
「張飛さんってば、茶化さないでくださいよ」
ぼくがビールのジョッキを持っていくと、さっき手を上げたコがにっこりと笑った。
「ねえ、キミ、アルバイトくん? なんていう名前?」
「え? ぼくですか」
「そう。さっきからこっちの大喬お姉さまが、聞け聞けってうるさいの」
「ちょっと、小喬!」
大喬と呼ばれた女性は、真っ赤になって僕の方をちらりと見た。

――ええ? それって、どういうリアクション?

思いがけない展開に、ちょっとドギマギするぼく。我ながら分かりやすい性格だよ、全く。
「はい。アルバイトの姜維です。どうぞよろしく」
「ふ〜ん。姜維くんっていうんだ。ここのお店にはいつも出てるの?」
「ええ、まあ。テスト期間以外は」
「ですって。大喬お姉さま、これから毎晩通う?」
「ばか……」
恥ずかしそうに目を伏せるしぐさが、何ともいえずかわいらしい。
(かわいいひとだなあ。ぼくよりは年上みたいだけど)
何と答えたらいいのか、言葉に詰まって、そんなことをぼんやりと考えていたぼくに、趙雲マスターの厳しい声が飛んできた。
「姜維くん、2番テーブルのオーダー上がりましたよ」
「あっ、はい! すみません」
いけない、いけない。仕事中だぞ。
ぼくは、あわててカウンターに戻り、渡された料理をテーブルに運んだ。


他の客がいるときは、特定のお客さまとあまり馴れ馴れしく話したりしないように、とはいつもマスターに言われていることだ。
そんなことも忘れてしまうほど、ぼくはのぼせ上がっていたんだろうか。確かに今だって、彼女の視線が気にならないといえば嘘になるけど。
けだるそうにカウンターに頬杖をついていた孔明さんが、料理を運び終えて戻ってきたぼくの顔を眺めて、にんまりと笑った。
「姜維ちゃんってば、過剰なサービスはだめよ〜。ここはホストクラブじゃないんだから」
「ちょっ……孔明さん。何を言うんですか、いきなり」
「うふ。まあ、舞い上がるのもわかるけどねえぇ」
孔明さんは、ギムレットのグラスを一気に飲み干すと、何がおかしいのか、くっくっと喉を鳴らして笑った。
隣に座っていた張飛さんも、楽しそうにウーロン茶割りのグラスを傾ける。
「よかったな、姜維。今からがんばれば、今年のクリスマスに間に合うぜ。カノジョいない歴20年の俺としちゃ、青春真っ最中の姜維くんがうらやましい限りだよ」
「な……。張飛さんまで……」
「うふふ。ほらほら、顔がにやけてる〜♪」
だめだ。孔明さんったら、今夜はお店が休みだからって、完全にまわっちゃってるよぉ。
「もう、やめてくださいよ、二人とも」
こんな会話、奥の女性たちに聞かれたくない。困り果てたぼくに、見かねた趙雲マスターが助け舟を出してくれた。
「はいはい、姜維くん。ここはいいから、裏へ行ってお水のボトルを2本持ってきて」
ぼくは、これ幸いと、逃げるようにその場を離れた。


「はあ……」
ストックヤードの冷蔵庫を開けて、「ごろごろ水」というラベルが貼られたペットボトルを2本取り出した僕は、何だかやり切れない思いでため息をついた。

――みんなしてあんなにからかうなんて、ひどいよ。まだ、何がどうなったっていうわけでもないのに。

何がどうなったどころが、まだ何も始まってすらいないのだ。
この調子だと、「ピーチ・ハート」で働いている限り、ぼくには恋愛なんてできないんじゃないだろうか。
(何言ってるんだ。それじゃまるで、「ピーチ・ハート」がぼくの生活のすべてみたいじゃないか)
ぼくにだって、大学生としての日常があるんだ。あんまり熱心に授業には出てないけど。
合コンや合ハイのお誘いだって来るかもしれない。まあ、部活もやってないし、サークルもうざくて半年でやめちゃったから、どこからもお呼びがかかりそうにはないけど。

――だめだ。やっぱりおれの毎日って、「ピーチ・ハート」オンリーじゃんか……。orz

あらためて気づいた。なんて寂しい、ぼくの学生生活。
これじゃカノジョなんて、永久にできるわけないよ〜。(T_T)

大喬さん
大喬 「姜維くん、お仕事がんばってね!」

(続く)

お気に召したらぽちっと押してやってください
人気ブログランキングに登録しています。

孔明さんの降臨だっ!

オカマの孔明さん♪
最近ちょっと影が薄い孔明さん。
このままだと、みなさんに忘れられちゃいそうで心配……なんだそうで、今日はわざわざ出勤前に、作者のところへ遊びに(ぼやきに?)来てくれました。
「みなさ〜ん、こんにちは♪ 孔明で〜〜す。お店にいらしたときは、ぜひご指名おねがいしますねン♪」
はいはい、そんなこと言うためにわざわざ来たんじゃないでしょ?
「そうだった! みなさんに聞いてもらいたいことがあったんだ。……実は、なぜかここの作者って、クリスマスシーズンになると『ピーチ・ハート』のシリーズを書きたくなるんだって。あたしたちって、そんなにお祭りっぽいイメージなのかしらン?」
そう、本当にそうなんです。
なぜだか分からないけど、この季節になると無性に「ピーチ・ハート」の仲間たちを書きたくなっちゃうんですよね。別にお祭りっぽいイメージっていうわけでもないんだけど。
今年も、はっと気がついたら12月も半分終わってて、大慌てでお話を練り始めたんだけど…。
ああ〜、もう、ぜっんぜん間に合わない! 今度こそダメだ〜〜。
今年こそは、姜維くんのラブストーリーモードとか書きたかったんだけどなあ。(T_T)
「えええ〜〜〜! なんで姜維くんなのよっ。あたしとマスターの仲は全然進展しないのに〜〜ぃ。そんな無駄話考えてる暇があるんなら、一昨年の続き、あたしとマスターの熱いクリスマスイブの話、早くアップしなさいよ!」
……は????
一昨年の続き? ああ、孔明さんのためにマスターがお店を貸切にしちゃったっていうアレね。
でも、孔明さんとマスターの熱いクリスマスイブって……。そんな話あったっけ?
「なかったから悔しいんじゃない。マスターったら、『今年のイブは孔明さんのために貸切にしますよ』なんて言っておいて、わくわくしながらお店に行ったら、結局いつものメンバーが顔をそろえてるんだもの。姜維くんだの張飛さんだの徐庶さんだの、あげくに夏侯探偵社の二人まで来てるのよっ。これって、ちっとも貸切になってないじゃない」
は〜ん、さすがは趙雲マスター。鉄壁の防衛ラインだわね(笑)。
「おかげでマスターとはまったく進展なし。キスどころか手もつなげなかったのよぉ。どうしてくれんのよっ」
きゃあ、孔明さん、落ち着いて〜〜。眉間にしわ、よってるわよ(爆)。
どうしてくれる、って言われてもねえ。こういうのは、作者の意図というよりも、キャラが勝手に動くというか……。
「よ〜し、分かった! 勝手に動いちゃっていいのね?」
何か心中に期すところがあるのか、怖い顔で出て行った孔明さん。
あ〜あ、なんか嫌な予感がするんですけど。マスター、くれぐれも気をつけてね。
『気をつけよう 暗い夜道と孔明さん』ってか。

★ほんとにこの時期、やたら書きたくなる「ピーチ・ハート」シリーズなんですが、今回はどうかなあ。間に合うかなあ。やっぱ無理かも。(^_^.)
あんまり期待しないで待っててやってください。ちなみに内容は、孔明さんのクリスマスイブではありません。念のため(大笑)。

お気に召したらぽちっと押してやってください
人気ブログランキングに登録しています。

久々の創作モード

…といっても、今回の「ピーチ・ハート」シリーズは、実は去年の暮れに書いて、本館の蜀錦の庭「言の葉つづり」のコーナーにアップしたものなんです。
毎度のことながら、手抜きですみません。m(__)m
毎年クリスマス〜年末になると、なぜか書きたくなってしまう「ピーチ・ハート」シリーズ。今年も、何かひとつぐらいは新作をアップしたいと思っているのですが…。

「ピーチ・ハート」に出てくる人たちは、みんなアイコンを作っているのですが、今回のゲスト馬超と馬岱のコンビはこんな↓感じです。
その他の登場人物については、<こちら>をご覧ください。

馬超
馬岱

お気に召したらぽちっと押してやってください
人気ブログランキングに登録しています。

ロック・ユー! (2)

「馬岱さん、今日はバイクで来たりしておられないでしょうね?」
「もちろんさ。この前なんてチャリで来たのに、それでもマスターに大目玉喰っちまったんだから」
馬岱さんは、わざと渋い顔をしてみせたが、目が笑っている。
「自転車でも飲酒運転で捕まるんですかぁ?」
と間の抜けた声を出したぼくに、
「当たり前です」
マスターは恐ろしく冷静な口調で、ぴしゃりと言った。
「おいおい、姜維くん。マスターの前で、飲酒運転の話はタブーだぜ」
「あ……」
そうだった。マスターのお父さんは、飲酒運転のトラックにはねられて亡くなったのだという話を、以前に張飛さんから聞いたことがある。だから、こういう商売をしていながら、マスターはかたくなに飲酒運転を認めない。たとえお客様と喧嘩になっても、これだけは絶対に譲らないのだ。
どうも今日のぼくは、自分でも嫌になるくらい気がまわらないなあ。
疲れているのか。気持ちがたるんでいるのか。こんなことではバーテンダー失格だ。

「親父さんが亡くなってから何年になるの?」
枡をなめながら馬岱さんが尋ねる。
「もう14年になります。一昨年、十三回忌を済ませましたから」
「おう、あの法事が俺の坊主デビューだったっけな」
「その節は、いろいろお世話をおかけしました」
あらたまって礼をいうマスターに向かって、馬超さんは、恥ずかしそうにツンツンに立った髪の毛をなぜた。
「よせやい。マスターにそんな風に言われると、冷や汗が出るぜ」
隣の馬岱さんが愉快そうに笑う。
「あはは。兄貴の武勇伝の第一号ですもんね」
「武勇伝か。確かにあれはびっくりしたな」
趙雲マスターのお父さんの法事のとき、脳溢血で倒れた先代に変わって、初めて馬超さんが急遽導師を務めることになったという話を、張飛さんが話していたっけ。
そのときの逸話がふるっていたらしい。
ナナハンに彼女と二人乗りで来たとか、サングラスをしたまま読経をしたとか、途中でお経を忘れてイーグルスの歌になっていた(笑)とか……。
そんな思い出話で盛り上がっているうちに、馬超さんも馬岱さんもすっかり出来上がってきたようだ。
空になった枡に『男山』を注ぎながら、マスターがぽつりと言った。
「お父さんを大事にしてあげてくださいね」
「ああ?」
「親孝行は、できるときにやっておかなくちゃ」
「うん、そうだな……」

マスターの言葉に、しばらくじっと考え込んでいた馬超さんが、ふと顔を上げた。
「なあ、馬岱。例のコンサートの話なんだけどよぉ……」
言いよどむ馬超さんに、馬岱さんは軽くウインクしてみせた。
「また周りからこっぴどく叱られたんでしょ。分かってますよ。そうでなきゃ、ここで一人男山なんか飲んでやしないもの」
「やっぱり、無茶だったかなあ。我ながらいいアイデアだと思ったんだけどよ」
馬超さんは、ため息と同時に所在なさげに頬杖をついた。強面の印象がちょっとだけ緩んで、ぼくより少し年上(だと思う)の若者の素顔がのぞく。
「だいたい兄貴の発想はユニークすぎるんですよ」
「西涼寺の本堂くらい思うようにできなくてどうするんだ。俺の夢は、東京ドームをいっぱいにすることなんだぜ!」
「はいはい。分かってますって」
馬超さんに合わせるようにうなずいてから、馬岱さんは少しほろ苦い笑顔で、枡に残っていた男山を飲み干した。
「残念だけど、今年のクリスマスはあきらめて、また来年考えましょ」
黙り込んでしまった二人に、趙雲マスターが思い切った提案をした。
「ねえ、馬超さん。相談なんですが」
「あん?」
「そのコンサート、ここでやるっていうのはどうですか」
マスターったら、突然、何を言い出すかと思えば。
張飛さんもぼくも、思わず耳をそばだてる。
「ちょっと狭いですけど……。防音はしっかりしてますから、どんな大きな音で演奏しても、近所から苦情がくることはありませんし」
「マスター、ほんとにいいの? クリスマスっていやあ、かき入れどきだろ」
「大丈夫ですよ。去年のイブは孔明さんの貸切だったし(笑)。まあうちは、クリスマスといってもそんなものですから」
確かに……。イブの夜に、たった一人の常連客のために店を貸切にすることぐらい、このマスターは何とも思っちゃいないのだ。
「場所代はいりません。皆さんが飲んだり食べたりした分の代金さえいただければ」
「イェイ!やったぜ!」
「兄貴、よかったっすね」
「おう。これで、他のメンバーにも言い訳が立つな」
二人とも、思いがけないマスターからの申し出に、心の鬱屈が晴れたのだろう。思いっきり声がはしゃいでいる。
「よおっし! 元気が湧いてきたぜえっ! 姜維も張飛さんも覚悟しとけよ! 今年のイブは、夜通しおれたちのスーパーライブを聞かせてやるからなっ」
「わ〜〜い。夜通しですかぁ。うれしいなぁ……」
顔ではにっこり笑いながら、内心、さっそく耳栓を買いに行く算段をしているぼくだった。
「そうと決まれば、今夜は前祝だ! コンサートの成功を願って、ぱあっとやろうぜ。マスター、『男山』一升瓶でおかわり!」

こうして今日も、ピーチハートの夜はにぎやかに更けてゆく――。

(了)

◆純米大吟醸 男山◆
日本酒が好きです。元来、燗酒はあまり好きじゃなかったんですが、冷酒のおいしさに目覚めてからは大好きになりました。よく冷えた吟醸酒は、フルーティで飲み口が良くて、いくらでもするすると入ってしまいます。気をつけないと、飲みすぎて後でえらい目にあうんですけどね…(笑)。
『男山』は飲み口が爽快で、(ナイショだけど)息子が好きなお酒です。
北海道へ旅行したとき、旭川にある蔵元へ見学に行きました。この純米大吟醸は、さすがに高級すぎて手が出ませんでしたが、資料によると「酒造好適米『山田錦』を38%に磨き上げ、昔ながらの"甑"(蒸米)、麹蓋(製麹)、"槽"(圧搾)等を使った手造りの酒。アルコール分16度、日本酒度プラス5と辛口で、フルーティな香りと、スッキリしたのど越しは、まさに日本酒の"芸術品"」なのだそうです。
馬超さんのごひいきにしたのは、ただ単に名前が男っぽくていいなと思ったからで、特に深い意味はありません。とはいえ、純米大吟醸を枡酒で飲むロッカーっていうのも、ちょっと面白いかな。

人気ブログランキングへ
人気ブログランキングに登録しています。
気に入ってくださったら、ぽちっと押してやってください。
あなたの応援が、創作と元気の源です。

ロック・ユー! (1)

都会(まち)の喧騒を離れた裏通りに、その店はある。
バー「ピーチ・ハート」。気配り抜群でしっかり者の美形マスター趙雲氏と、ちょっぴり気の弱い天然癒し系のアルバイト姜維くんが切り盛りする、小さなカウンターバー。
今夜も、ちょっと疲れた男たちが羽根を安めにやってくる……。


◆◇◆◇

11月も半ばを過ぎると、さすがに朝晩はぐっと冷え込んでくる。
今年最初の木枯らしが吹いた金曜日の夜。
ぼく(姜維)がアルバイトをしているバー・ピーチハートは、外界の寒さから逃れてほっと一息つきたいという客たちで、めずらしくにぎわっていた。

9時をまわって、ようやく客がひき始めた頃、ひとりの若い男が入ってきた。
真っ赤な革ジャンにライダーブーツ。赤く染めた短い髪をツンツンに立たせ、片方の耳には派手なピアス。
最初に見たときは、どこの暴走族が来たのかとびびってしまったぼくだったけど。その正体が、実は近くにある西涼寺の跡継ぎで、この界隈でも有名なヤンキー坊主だと知って、もっとびっくりしたものだ。
「いらっしゃいませ、馬超さん」
「おう、姜維。今日もがんばってるか?」(←本人はシャレのつもりらしい)
「あはは……(汗)」
カウンターの真ん中に陣取った馬超さんは、人懐こそうな笑顔をぼくに向けると、
「いつものやつな」
と親指を立てた。
「姜維くん。奥の冷蔵庫から出してきて」
趙雲マスターに言われて、ぼくは裏の貯蔵庫へ馬超さんの『いつもの』を取りに行った。お目当てのものを抱えて店内に戻ると、カウンターにはすでに、ちゃんと皿にのった枡が用意されている。
そう。馬超さんの「いつもの」は、飲みごろに冷えた日本酒なのだ。
『純米大吟醸 男山』
一升瓶に、豪快な文字が躍っている。
「そうそう、それそれ。日本男児なら、やっぱり日本酒だよな」
マスターは、黙って枡になみなみと男山をついだ。あふれた酒が皿にこぼれる。それを見て、馬超さんがにやりと笑う。
「いいねえ。この皿にこぼれたやつを先にすするのが、またうまいんだ」
「馬超さん、今夜はご機嫌ですね。何かいいことでもあったんですか?」
愛想のつもりで言ったぼくに、マスターが恐い顔で目配せした。
(あれ? 何かまずいこと言ったかなあ……?)
とたんに、馬超さんが暗い顔になって黙り込んでしまったものだから、ぼくはますます困惑してしまった。

「だめだろ、姜維くん」
とまどっているぼくに注意したのは、奥の席に座っていた張飛さんだ。
「馬超さんが必要以上におしゃべりになるのは、嫌なことがあって腹の中じゃムシャクシャしてる時だってのは、俺でも知ってるぜ」
「あ……!」
そうだった。いつもはあまり余計なことは言わないのだ、この人は。何か胸につかえていることがある時だけ、饒舌になる。ちょっと間が空いていたので、すっかり忘れてしまっていた。
「すみません。気がつかなくて」
あわてて頭を下げると、馬超さんは、かえってすまなさそうな顔になり、
「いいって、いいって。そういう素直な姜維が好きなんだ、オレは」
と、らしからぬ優しい目でぼくを見た。
(……やっぱり、いつもとは様子が違うんだけど)
「で、どうしたんだい? また檀家の年寄り連中に何か言われたのか?」
「………」
馬超さんは、張飛さんの質問にしばらくじっと考えていたが、思い切って口を開いた。
「実はさ、今度のクリスマスに、寺の本堂でロックコンサートやるって言ったら、檀家のお偉いさんたちが血相変えて飛んできやがってよぉ」
「ロックコンサート? 西涼寺の本堂で?」
「まったく、じじいは頭固えよなあ」
「あは……あはは……(汗)」
ぼくも張飛さんも、もう笑うしかない。
本堂でヘビメタなんてやられた日には、ご本尊の阿弥陀様だって腰を抜かしてしまうことだろう。ましてクリスマスなんて、お寺さんには何の関係もないんだもの。あわてふためいて、このヤンキー住職見習いを止めにきた人たちの様が見えるようだ。
「で、結局取り止めるのかい、ロックコンサートは?」
「まあ、しゃあないさ。親父の病気もこれ以上悪くしたくねえからな」
馬超さんは、苦虫を噛み潰したような顔で、男山の入った枡を口に運んだ。

その時、勢いよく店のドアが開いた。
顔をのぞかせたのは、馬超さんのバンド仲間の馬岱さんだった。
「あ、やっぱりここでしたね」
「おう、馬岱か。よく分かったな」
「寺の方へ顔を出したら、出かけたっていうもんだから。多分ここじゃないかと」
馬岱さんは、軽い足取りで馬超さんの横の席に腰を下ろした。
「マスター、俺にもその『男山』一杯!」
「承知しました」
注文を受けるより早く、馬岱さんの分の枡がカウンターに用意されている。さすが趙雲マスターだね。
「ところで――」
縁なし眼鏡の奥で、マスターの目がきらりと光った。

(続く)

お気に召したらぽちっと押してやってください
人気ブログランキングに登録しています。

| 1/3PAGES | >>