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夏雲の彼方(置き土産です)

JUGEMテーマ:小説/詩





高い空に、真っ白な入道雲が頭をもたげている。
降るような蝉時雨。
夏の昼下がり、壬生寺の境内はしんと静まり返っている。
いつもは鬼ごっこやかくれんぼに興じている子どもたちの姿も、今日は見えない。
あまりの暑さに、家で昼寝でもしているのだろう。
藤堂平助は、寺の縁側に座って、白く輝く雲の峰を眺めていた。
頭には暑苦しいほど包帯が巻かれている。
池田屋へ斬り込んだときに受けた傷だった。
額に受けた一撃は思いのほか深手で、彼は三日三晩死の淵をさまよい、ようやく蘇生した。
それから十日あまり。やっと屯所の外まで出られるようになったのだ。


突然、平助の視界を横切ったものがある。
(あ。竹とんぼか――)
竹とんぼは、空高く舞い上がり、青空の色ににじんだかと思うと、すいっと元の場所に戻ってくる。
その影が、平助の後ろに近寄ってきた男の手元に吸い寄せられた。
「平さん」
「なんだ、総ちゃんか」
手元に落ちてきた竹とんぼを見事に捕らえたのは、沖田総司だった。
「もう、起きていいの?」
「ああ、やっと医者の許可が出たんだ。寝てるしかない、っていうのは退屈で死にそうだからな」
「そう、よかったね」
沖田は、彼らしい透明な笑顔で平助を見た。日陰に立っているせいか、ひどく顔色が悪い。
「総ちゃんの方は、もうすっかりいいのかい?」
「私なら、大丈夫。元々体調が悪かっただけで、怪我したわけじゃないんだから」
「そうだったな」
あの夜、沖田も池田屋での戦闘中に倒れたのだ。
本人は、風邪を引いて体調が悪かったせいだと言っているが、実際には、大量の血を吐いて昏倒したのだということを、平助は知っている。
(この、陽気でよく笑う総司が労咳だなんて、とても信じられねえ)
自分の怪我は、日がたてば癒える。幸いにも、剣を振るうのには支障のない怪我だった。
だが、沖田は――。
労咳は不治の病だ。血を吐く、ということは、死を宣告されたに等しい。


ふたたび。
竹とんぼが空高く舞い上がる。
沖田の視線は、無邪気にその軌跡を追いかけている。
風に乗る竹とんぼを追って、日差しの中へ進み出た沖田が、つと振り向いて言った。
「池田屋で傷を負ったとき、平さんは何を考えてた?」
「え?」
「私は……。気を失う寸前にね、ああ、もうこれで死ぬんだ、と思うとさ、次は、自分が死んだら誰が泣いてくれるんだろう、なんて考えてたんだ」
平助の心臓が、どきんと音をたてた。
「まあ、少なくとも姉さん、それに近藤先生や土方さんも泣いてくれるかなって。そう思うと、なんだか安心して死ねるような気がした。おかしいね」
まぶしそうに目を細める沖田の手の中に、まるで魔法のように竹とんぼが滑り込んでくる。
手にした竹とんぼをくるくる回しながら、彼は平助の横に腰を下ろした。薬湯の匂いが、つんと鼻をつく。
「俺もさ、同じことを考えてたよ」
ひざを抱えたままで、平助がぽつりとつぶやいた。
「真っ暗な部屋の隅に転がって、意識が薄れていって……。だけど俺の場合は、俺がここで死んでも、誰も泣いてくれねえだろうなぁ、って思ったんだ。そういう人を残してこなかった自分の人生がひどく寂しいものに思えて、なんか悲しかったな」
しんみりと声を落とすと、急に沖田がはじけるように笑い出した。
「まさか。近藤先生や山南さん、それに新八っつぁんだって絶対泣くよ。土方さんはちょっとわかんないけどね」
――うん、と平助は素直にうなずいていた。
そうだ。きっと、試衛館の仲間たちが泣いてくれる。
親も兄弟もいない。ずっと孤独の中で生きてきた。そんなモノトーンの自分の人生の中で、試衛館で過ごした何年かだけが、鮮やかに彩られた月日だった。


「俺、ここにいてもいいんだよな?」
自分なりの思想や夢があったわけではない。ただ、みんなと離れるのが怖くて、京へついてきた。
足手まといになりたくなくて、いつもがむしゃらに前に向って突き進んだ。
そんな自分は、本当に他の仲間から必要とされているのだろうか。
「平さん」
沖田が、いつになく真剣なまなざしで平助の顔をのぞき込んできた。
「私は、平さんが死んだら泣くよ。他の誰が泣かなくても、私だけは絶対に泣くから」
「―――」
言葉が出ない。
代わりに、涙がこぼれた。
恥ずかしさに、思わず目をそらす。遠くに投げた視界の中に、抜けるような空の青が飛び込んできた。
(新選組の青だ――)
浅葱色の隊服。新選組の青は、誠忠の青だ。
この空が何処までも青いように、新選組は何処までもまっすぐにその誠を貫くのだ。
そして、自分もまた、この空のようでありたい。
遥か遠くを見つめる平助の視線の先を、もう一度、竹とんぼが飛んだ。




◆◇◆

ブログのお引越しをするにあたって、置き土産をひとつ残していきます。
先日アップした拍手お礼用のSSです。
また、後日、きちんとページを作ってサイトの方にアップしたいと思っているのですが、そこまではこちらでひっそりと…(笑)。

これまで、平助くんと総司の絡みって、自分の中で考えたことがありませんでした。
年齢的にも近い二人(総司の方が2つほど年上?)なので、ふだんの会話はこんなふうだったらいいなと思います。
でも実際には、他流派の居候同士ということで、平助くんは永倉や原田と仲がよかったような気がするんですよね。某ゲームでは「三馬鹿」とか呼ばれてましたけど(笑)。
同じ北辰一刀流ってことで、山南さんを兄のように慕っていた、という設定を希望します。(^^)


  

風を待つ

JUGEMテーマ:小説/詩





あ、風が変わった――。


雨が降るかもしれませんわ。
早く片付けて、家に戻りましょうか。

畑仕事の手を止めて
妻がつぶやく

屈託のないその笑顔にひきこまれるように
私も明るく微笑み返す

 
緑したたる初夏の午後
草の匂いのする 少し湿った風は
雨が近いことを告げている

この風のように
いつか 私の世界も変わるのだろうか


いつまでも
この隆中の片田舎で 愛する妻とふたり
穏やかに 静かに暮らしていたい

そう願う心のどこかで
何かを待ちこがれる気持ちが動いている


それは風なのか
あるいは嵐なのか

私はひとり
時を待つ臥龍



◆◇◆

4周年記念のSS3作を拍手お礼からいったん下ろし、改めてサイトの各コーナーからリンクし直しました。
代わりのお礼用にと、あわててアップしたのがこちら。
「詩」と呼べるほどのものでもないのですが、未だ劉備に見出される前の、隆中に晴耕雨読していた頃の諸葛孔明の心境を書いてみました。
胸の中にあふれるほどのたぎり立つ「思い」を抱えながら、じっと風を待つ臥龍。
そんな夫を、温かく見守る妻。
やがて訪れる天の時が、二人の運命を大きく変えていくことになるのですが…。

寝 顔

JUGEMテーマ:小説/詩






陽春、漢中。
春たけなわとはいえ、夜になれば思いのほか冷え込む。
たまりにたまった雑務を片付け、丞相府を出た姜維が私邸に着く頃には、すでに真夜中をまわっていた。
もう就寝しているであろう家人を気遣い、そっと裏木戸から奥へ回ろうとすると、寝室にはまだ灯りがともっている。
そっとのぞくと、妻が手燭の下で、年若い下女を相手に繕いものに精を出していた。
「香蓮、まだ起きていたのか?」
「だんなさま――」
お帰りなさいませ、と微笑む妻の顔が、火灯りに照らされて美しい。
「あまり無理をするな。体を壊したら何にもならぬ」
「お気遣い恐れ入ります。でも、私、子どもの頃から体だけは丈夫でしたから」
ふふふ、と含み笑いをしながら、手早く着物を片付けると、香蓮は下女に酒肴の用意を命じた。


やがて、ささやかな酒肴が運ばれてきた。夫婦二人だけの静かな宴である。
互いに杯に酒を注ぎ合い、一気に飲み干す。
「伯約さまの方こそお疲れでしょう?」
「私が?」
「毎晩遅くまでお仕事ばっかり。ほんとに孔明先生ったら、人使いが荒すぎます」
香蓮の目蓋が、ほんのり赤く染まっている。
「今宵はまだ早く片付いたほうだ。だからこうして、そなたと酒を飲むことができる」
姜維は笑いながら、空になった妻の杯に酒を注いでやった。
確かに、こうして二人で酒を酌み交わすなど、何ヶ月ぶりだろう。
倦むことなく繰り返されてきた北伐が、しばらくの間沙汰止みとなり、漢中は今、束の間の平穏の中にある。
それでも、丞相諸葛孔明の右腕たる姜維には、やらねばならぬことが多すぎた。特にここ数週間は、丞相府で夜を明かすこともしばしばだったから、新婚の妻の顔をゆっくりと眺める暇さえなかったのである。
姜維には、師である孔明の思いが手に取るように分かっていた。
執拗に繰り返される北伐。だが、思ったような戦果を挙げることができない。しかも、厳重に秘されてはいたが、孔明はこのときすでに重篤な病に冒されていたのだ。
蜀の未来と己が命を見据えた師の悲愴なる決意を思うとき、姜維はやりきれなさに胸が張り裂けそうになる。
果たして、自分に何ができるのか。
私の魂魄のすべてをもって、孔明先生のために何をなすべきなのか、と。


「だんなさま。笛を聞かせてくださいませんか」
香蓮に乞われて、姜維は、日頃愛奏している一管を取り出した。
奏ずるほどに、胸の疼きは大きくなっていく。姜維は、香蓮があきれるほどの激しさで、情のほとばしるまま笛を奏し続けた。
やがて、酔いと睡魔に耐え切れなくなって卓に突っ伏した香蓮が、小さな寝息を立て始めた。
(気丈なことを言っていても、やはり、疲れていたのだな)
姜維は、そっと妻の体を抱き上げると、寝床に横たえてやった。
ほんのり上気した頬に、乱れた髪が艶かしい陰影を投げている。起きているときの凛とした彼女からは想像できない『女』の表情だった。
しばしその寝顔に見とれ、姜維はそっと妻の頬に唇を寄せた。肌理細やかで吸い付くような肌。
香蓮の横顔は、突然姜維の脳裏に懐かしい面影を思い起こさせた。
天水の母、である。

――思えば、私は母上の寝顔というものを見たことがないな……。

姜維がどんなに早起きをしても、あるいは勉学のために夜更かしをしていても、母はいつも起きて息子を見守っていた。
女というものは、大切な男を見守るためなら、眠ることさえ我慢できるのだろうか。
母にとって、自分がよき息子だったとは思わない。
(己の信ずる道を生きてきた、という自負はある。だがそれは、結局は母上を泣かせることになってしまった)
姜維は唇を噛んだ。
「香蓮……」
小さく、妻の名を呼んでみる。
「そなただけは、決して泣かすようなことはしない。約束するよ」


願わくば、妻のこの束の間の眠りが安らかなものでありますように。
そして、丞相の大志がいつの日か天に届きますように。
空気までもがどこか艶めいているような、春の闇の中に姜維はひとり、籠るような思いでいる



◆◇◆

ようやく3つ目の拍手お礼SSが出来上がりました。
ふえ〜〜、何とか間に合った。よかった〜〜。
第3弾は三国志もの。そして、拙サイトで三国志といえば、やはりこれ、姜維と香蓮のカップルかなということで、相変わらず二人の甘々な日常です(笑)。
新婚カップルな二人って、こんな感じ??
突然、母上が登場するのは、母の日が近いよね〜という意識がどこかにあったからかもしれません。
決して、姜維がマザコンという訳ではありませんので…。(^_^;)

あなたの為ならこの身など

JUGEMテーマ:小説/詩




――さこんっ!

朱にまみれた鎧。
血の気の失せた蒼白な顔。
その姿を目にしたとき、石田三成は、心臓が止まってしまうのではないかと思った。
「左近! 左近! しっかりせよ! 私の声が聞こえるかっ」
三成の必死の呼びかけに、盾板の上に横たわった男は、薄く目を開いた。
「殿……」
「すまぬ、左近。そなたをこのような目にあわせて」

――まったく、なんて顔をするんだろうね、うちの殿は。これじゃあ、殿が心配で、おちおち討ち死にもできやしない。

そんなことを考えているうちに、痛みが薄らいできた。
島左近は、ゆっくりと上体を起こし、盾板の上に胡坐をかくと、部下に命じて鎧をはずさせた。
脇腹と太股に一発ずつ被弾している。
「左近。大丈夫なのか」
「なあに、かすり傷ですよ。心配ご無用」
座ったまま応急の手当てを受けながら、わざと元気に答えてみせる。
それでも、三成の体の震えは収まらないようだった。
「殿、しっかりしてください。今は、俺の心配などしている場合ではありませんぞ。西軍の命運が、殿の采配にかかっているということをお忘れなく――」
「分かっている。分かっているのだ」
ぷい、と横を向いた拍子に、三成の頬をこぼれたしずくに気づき、またも左近は小さくため息をついた。
(泣かないでくださいよ、殿。大将がそんな顔をしていては、全軍の士気にかかわるでしょうが)
まだ負けと決まったわけではない。天下分け目の戦いは、これからが正念場なのだ。
そんな大事なときに、戦の行方よりも、一人の家臣の負傷を気遣って涙ぐむなどとは。
(殿らしい、というべきか)
そういうところに惚れたのだ、と胸の中でもう一人の左近がにやりと笑う。

手当てを済ませた左近に、再び三成が声をかけた。
「しばらく休んでおれ。後は、私が前線に出て指揮を執る」
「とんでもない。大将は常に、本陣に不動でいなければなりません。俺への気遣いなら無用ですよ。どんなことがあっても、殿は左近がお守りします。そのために、俺はここに居るんですから」
「左近……!」
蒼白だった三成の頬に、朱の色がさす。
「佐近、確かに俺は情けない主君だ。そんなことは、お前に言われずとも分かっている」
それでも――、と三成は唇をかんだ。
「今、この戦況の行方よりも、お前の身が大切なのだ。叱られてもいい。怒鳴られてもいい。お前を死なせたくない」
「殿?」
こんな頼りなさげな三成を見たのは初めてだった。
西軍の総帥としての張りも、大名としての誇りも、なにもない。親にはぐれた子どものように、おびえた眸子がすがるように左近を見つめている。
「左近を失うかもしれぬ、ということが……これほど辛いとは思わなかった」
体の半分を、魂の半分を、引きちぎられるほどの苦痛。おそらくそれは、己が世界のすべてを失うに等しい苦しみだ。
盾板の上に横たわった左近の姿を見て、それがどういうことか、身にしみて三成には分かったのである。

「――まったく、困った人だ」
苦笑しながら、言葉とはうらはらに、左近は三成の華奢な肩を抱きしめていた。
「殿、左近に万一のことがあっても、決して……」
「え?」
よく聞こえなかった、と三成がけげんそうに眉を寄せる。
「いえ、何でもありません」
ぐい、という感じで三成の肩から手を離すと、左近はその場に跪き、凛とした声で告げた。
「では殿、島左近、再び出陣いたし、敵を蹴散らしてまいります」
「頼む。……死ぬなよ、左近」
見上げれば――。大きく見開かれた三成の眸子は、今にも涙がはじけそうだ。
主の必死のまなざしに応え、左近は晴れやかな笑顔を浮かべた。
「死にませんよ!」

馬上、長槍を振るいつつ、島左近はゆく。
行く手をさえぎる無数の敵を蹴散らし、突き殺し、何度も突撃を繰り返し――。
鬼神をも凌ぐその勇猛な戦ぶりは、後の世まで語り伝えられた。

「殿の為なら……」
この身など、何で惜しかろう。
あの日、石田三成という主君にめぐり会った日から、己が命などとうに捨てている。
だが――、と左近は思う。
(俺が死ねば、殿は泣くだろうな。まさか、早まるようなことはないだろうが)
先刻、飲み込んだ言葉が、頭の中でぐるぐる回っていた。

――あのひとを、泣かせたくない。
――俺はただ、殿の笑顔を守りたいのだ。

だから、死ねない。
必ず、生きて。
勝利を我が物とする。
殿の笑顔のために。


◆◇◆

拍手お礼用SS第二弾は、久々の佐和山主従です。
やっぱりどうしても、殿が乙女チックになってしまいますね。(^_^;)
本当は、石田三成という人は、もっと強い人だったと思うのですが、どうも無双から入ったせいか、私が書く殿は、左近に頼りっぱなしというイメージになってしまいます;;
いつか、もう少し凛とした殿を書いてあげなくては…。

世界で一番幸せな私

JUGEMテーマ:小説/詩

 

横を歩いている平助くんの髪が、さらりと私の頬に触れる。
改めて……本当に改めて、生身の平助くんが隣にいるのだと実感して、私は心の底からうれしくなってしまう。

――神様の気まぐれだろうか。

突然、降ってきた幸せに、最初はどうしたらいいのか分からなくてとまどったけど、今は素直にその気まぐれに感謝したい。
ありがとう、神様。
ありがとう、平助くん。


「なあ、花梨。このやたらキラキラしたやつって、いったい何だ?」
平助くんは、少し歩くたびに立ち止まっては、目を丸くして私に尋ねてくる。
「んとね、それはクリスマスツリーっていってね――」
そう、もうすぐクリスマス。
街中が、クリスマスソングとイルミネーションであふれている。
見たこともない夜の景色に、平助くんは興奮しっぱなしだ。
「俺たちの世界じゃ、夜は暗くて寂しいものだって決まってたんだけどなあ」
不思議そうに夜空を見上げる平助くん。
私は、そんな平助くんの後姿に見惚れてしまう。
髷を解いて、ゆるく後ろで束ねた髪は、腰まで届きそう。つやつやで、さらさらで、うらやましくなるくらい綺麗な髪。
今の日本では、長髪が一般的ではないと知った平助くんは、髪を切ろうかと提案したのだが、私は断固反対した。だって、もったいないんだもの。こんなにきれいな髪なのに。
それに。
もし、もしも、だ。彼が元いた幕末の時代に帰ることになったら、髪が短いと困るだろう。そんなこと、絶対にあってほしくはないけど……。
「そのかわり、星がさ、それこそ数え切れないくらいいっぱいで、ほんとに綺麗だったんだぜ」
「うん」
「お前の世界じゃ、星なんて見えねえもんな」
振り向いた笑顔が、ちょっぴり寂しそう。
「花梨にも、あの星空を見せてやりてえなあ」
やっぱり、自分の生きていた場所が懐かしいのかな。
そうだよね。こんな訳の分からない世界で、ひとりぼっちなんだもの。
それまでの自分の人生が根こそぎなくなってしまったようなものなんだもの。
(私ひとりじゃ、どうすることもできないよね……)
私に気を使ってくれているのか、ふだんはそんな素振りを見せない平助くんだけど、時折ふっと、表情の端々に寂しい影がにじむのを見るたび、胸が締め付けられるみたいで切なくてたまらない。


そのとき、暗く凍てついた空から、雪が降ってきた。
「あ、雪だよ! 寒いと思ったら……」
はしゃいだ声を上げた私に、平助くんは優しいまなざしで微笑んだ。
「やっぱり花梨は、笑顔がいいな」
「………」
どきん、と心臓が音をたてた。顔が熱くなる。

――不意打ちだよぉ。そういうの、反則っていうんだよ。

一度火がついてしまったときめきは、もう自分ではどうにもならない。
世界中の誰よりも、平助くんが好き。
本やドラマで知っている藤堂平助ではなく、今、目の前にいる平助くんが好きだ。


はらはらと風に舞う粉雪が、平助くんの髪に、肩に、舞い落ちる。
その雪に、イルミネーションが反射してキラキラ光る。
まるで、空いっぱいに瞬く星のように。
「平助くん――」
私は、平助くんの手を握り締めると、端正な顔をじっとのぞきこんだ。
大きな眸子に、夜の街が、そして上気した私の顔が映っている。
「私には、平助くんの眸子の中に星が見えるよ」
「ば、馬鹿!」
あわてて背を向けた彼。
ごめん、びっくりした?
だけど。
私には確かに見えたよ。あなたの眸子に宿った星の輝きが。
きっとそれと同じくらい、あなたの生きていた世界の夜空は、綺麗に澄んでいたのだろう。
いつか二人で、「平助くんの星空」を見ることができたらいいのに、と心から思う。それはもしかして、とてつもない運命に身を任せることになるのかもしれないけれど。


神様の気まぐれで、あなたに出会えた。
これから先、どんなことがあっても、あなたについていきたい。
平助くんと二人なら。たとえどんな試練にでも、立ち向かっていけそうな気がする。
私はきっと、世界で一番幸せな女の子だ。


◆◇◆

もうすぐ拙サイト「いにしえ・夢語り」の開設記念日です。
ようやく4周年。毎年、この日を迎えるたびに、よくここまで続いたなあ…という感慨と、その割にはちっとも中身が充実しないなあ…という忸怩たる思いにとらわれます。
まったく、4年もサイトやっていながら、この中身の薄っぺらさは何たることでしょうね;;
今年も今年で、とにかく仕事がとんでもない忙しさでして、結局なにもできずに5年目に突入!ということになりそうです。
ああ、情けなや…。(T_T)
とにかく、拍手お礼だけでも何とか更新したいと思っているのですが。
これは、その第1弾。できるかどうかわかりませんが、開設日までに何とか、新選組、三国志、戦国の3種類をアップしたいと思い、がんばっています。

二人静

 


――ねえ、私の声、あなたの耳に届いてる?



あの夜、平助くんは人であることを捨てた。

私のために傷を負い
私のために命を失い
私のために……人として生きることを捨てたのだ。


人としての喜びも、悲しみも
あなたがこれから出会うはずだったすべてのものを
私がこの手で奪ったのだ。

許してもらおうなんて、思っていない。
ただ、あなたと一緒にいたいだけ。


あなたが
羅刹と化した我が身を疎ましく思うのなら
私も同じものに身を落とすから。

あなたが感じる恐怖を
底知れない悲しみと怒りを
私もともに背負うから。


だから、傍にいていいですか――。



◆◇◆

拍手お礼用に考えた詩。
「薄桜鬼」の藤堂平助くんに、ヒロインからの思いを詠んだもの。
元々は、二次創作したくて考えた出だしの文章だったのですが、やはり二次創作は得意ではありません(笑)。
いつか、書けるといいなとは思っているのですが…。

七 草

JUGEMテーマ:小説/詩





年明けの賑々しさも一段落し、今日は七草粥の日。
佐和山の城では、島左近が縁側に立って、うっすらと雪化粧した庭を眺めていた。
「今朝はやけに冷え込むなあ」
そう言えば……と、左近は眉間にしわを寄せ、厳しい表情になった。
「殿は大丈夫だろうか」
左近の主、佐和山城主である石田三成は、昨夜から腹をこわして臥せっている。
もちろん左近は寝ずの番をするつもりだったのだが、三成が無理やり引き取らせたのだった。
「さて、ご機嫌伺いに出向くとしますか。おっと、その前に――」
左近は、下女たちが朝餉の支度をしている台所へと向かった。


一方。
(寒い……)
三成は、布団の中で震えていた。火桶に炭を入れ、布団を二枚重ねても、まだ寒い。
時折襲ってくる腹痛と下痢のため、昨夜はほとんど眠れなかった。ようやく痛みは治まったものの、体全体が自分のものではないように頼りない。
(左近はどうしているかな)
無理やり自室に下がらせたことを怒っているだろうか。
三成にしてみれば、腹痛に苦しむ自分の姿を左近に見られたくはなかったのだ。見栄っ張り、は生まれついての性分である。
そんなことを考えながら、ぼんやりと天井を見上げていたとき。
「殿、入りますよ」
当の左近の声がしたかと思うと、縁側の障子がからりと開いた。
「左近!」
三成は声を上げ、目を見開いた。
たった今、思い浮かべていた人物の顔をそこに認めて、思わず視線をそらす。胸の奥が、少しだけとくんと小さな音をたてた。


「お加減はいかがです?」
「うん。もうだいぶよくなった」
「そうですか。それじゃあ、これを召し上がってください」
「―――?」
左近が三成の枕元に差し出したのは、ほかほかと温かな湯気を立てている粥だった。
「今日は七草の日ですから。これなら腹にも優しいし、ぬくもりますよ」
「左近が作ったのか?」
「台所を借りて、ぱぱっとね」
「器用だな」
三成がにこりともせずに言うと、左近は粥を椀によそいながら、あははっ、と豪快に笑った。
「いやあ、粗野な暮らしが長かったものでね」
三成は、勧められるままに粥を口に運ぶ。一口食べるごとに、腹の中からぬくもりが染み渡っていくようだ。いつの間にか、寒さも忘れていた。
「うまい」
「お口に合いましたか」
深く大きく自分を包んでくれる左近の優しさが、体中に広がっていく。三成は、少年のような笑顔を見せた。
「左近の味がする」
「お、これはどうも」
最大級の褒め言葉に、左近は薄っすらと微笑した。


「雪景色は嫌いではないのだが――」
子どもの頃から冷えるとすぐに腹をこわしてしまうのだ、と三成は苦笑した。
「だが、そのときは、こんなにうまい粥を作ってくれる人が傍にいなかったのでな。辛いだけの思い出だ」
「これからは、殿が腹をこわされたら、左近がいつでも粥を作ってさしあげますよ」
「ああ。それなら……、腹をこわすのもいいかもしれぬな」
雪をまとった琵琶湖の風景を愛でながら、主従は温かな笑みを交わし合う。
「それでは殿、後で雪見酒としゃれ込みましょう」


佐和山の城には、何よりも強い主従の絆で結ばれた主と家臣がいるという。
風雅を愛する二人は、無類の酒好きでもあったそうな。
花の頃には花を愛で、月に酔い、雪に遊ぶ。
ほらね。
戦国は今日も、佐和山日和――。


◇◆◇

拍手お礼用に、めちゃくちゃ久しぶりに佐和山主従のお話を書きました。
三成がかなり乙女なことになっております(笑)。

初 雪

JUGEMテーマ:趣味




「ああ、さぶ……」
隣を歩いていた総司が、ふいにくしゃみをする。
俺は立ち止まって、奴の顔をのぞきこむ。
「おい、大丈夫か?」
「やだなあ、土方さん。大丈夫ですよ」
総司は屈託なく笑うが、今の俺にはそんな小さなことでさえ、気になってしかたがない。

京の冬。
朝の冷え込みはことに厳しい。
「もっと着込まねえと、ほんとに風邪をひいちまうぞ」
「心配性だよね、土方さんは。そういうことは源さんに言ってやってくださいよ。俺、子どもの頃から体だけは丈夫なんだから」
白い息を吐きながら、総司は、試衛館時代の口調でからからと笑った。

馬鹿野郎――。
誰もがガキの頃みたいに元気なままなら、こんなに心配しやしねえよ。

俺や近藤さんによけいな気遣いをさせるまいと、わざと明るくふるまうお前が哀しくて、俺はそっと視線を移す。
灰色の空から、ちらちらと白い欠片が舞い落ちてくる。
「あ、雪だ! 見て見て、土方さん、雪ですよ!」
今年初めて見る雪に、総司は子どものようにはしゃいだ声をあげた。
「ああ……」
京に来て、二度目の冬だ。
去年の今頃、お前はまだ本当に元気で。細っこいその体に、病魔の翳りさえ落ちてはいなかった。
雪の積もった寒い朝でも、今日と同じように、舞い落ちる雪を追いかけては走り、子どもたちと遊びまわっていた。
そんな何気ない日々が、いつまでも続くと思っていたのに。
(なんでお前なんだ!)
突然、俺の胸底に、怒りとも哀しみともつかない激情が湧き上がる。
(ほかの誰でもなく、なんでお前なんだよ――)

どうして、総司なんだ?
どうして、お前が、労咳なんて病に冒されなくちゃならねえんだ?
どうして――。

どれくらいの間、ぼんやりとその場に立ち尽くしていたのだろう。
気がつくと、俺の目の前に、満面の笑顔が咲いている。
「土方さん、どうしました?」
「………」
「早く用事を済ませて帰りましょう。今日は、八木さんちのおかみさんに、甘酒をご馳走してもらう約束になってるんですよ」
どこまでも明るい笑顔がまぶしくて、俺は思わず視線を泳がせる。
そんな俺にかまわず、そのままくるりと体の向きを変えると、総司はさっさと歩き出した。

上背のある、ちょっと肩のはった後姿。
いやというほど見慣れてきたその後姿が、今日はやけに鮮やかに目にしみる。
俺は、あわてて総司の後を追いながら、小さなため息をひとつ、した。
ため息は、いつか灰色の空に吸い込まれ――。
白い欠片は、音もなく俺たちの上に舞い落ち続ける。



◇◆◇
 
まったく、「薄桜鬼」効果は絶大です〜〜!
気分が高揚するあまり(笑)、新しく、Web拍手お礼用のSSをアップしました。
といっても、先にアップしていた「風花」の詩と、シチュエーションはほとんど変わらないんですけれどね。
総ちゃんがやたら元気そうなのと、トシさんが妙に優しげなのは…これも「薄桜鬼」の影響かもしれません。(^_^;)

色づく街で




気がつくと、街はカラフルに彩られて
高くなった空をバックに
赤や黄のあざやかなタペストリーが織り上げられている。

ああ、もうそんな季節――。
いつの間に。

ついこの間まで
暑い暑いと汗を拭っていたのに。

季節はゆっくりと歩をすすめ
野も、山も、街中の木々も
もうすぐやってくる冬じたくに忙しい。


私も前にすすまなくちゃ。
頭ではわかっているの。
でも――。

いつまでも、なくした恋の思い出にとらわれて
次の季節へ踏み出せないでいる
泣き虫で寂しがりやの私。


もうすぐ新しい季節がやってくるよ。
まっさらな朝がやってくるよ。

色づく街の木々は
臆病な私に、優しく声をかけてくれる。
ぴんと冷たい秋の風が
そっと私の背中を押していく。

ああ、そうだ。
明日はきっと、いいことあるね。
だって、未来はまっさらだもの。
この空のように。
この街のように。


久々に書き下ろした拍手お礼用の詩です。
なんだか忙しさにかまけて、この頃あまりよく外の景色も見ていなかったなあ…なんて。
ふと気がつくと、銀杏並木が目にもあざやかな黄金色に変わっていて、びっくりしてしまいました。
厳しい冬へと向かうこの季節。
木々の彩りが目にしみるばかりに鮮やかで、どこか凛とした晩秋の空気が、結構好きだったりします。 


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佐和山主従

殿から左近へ


左近、
頼りにしている――。


何度この言葉をつぶやいたことだろう。

そして 本当に
いつもお前は側に居てくれた。

軍師として
友として
何よりも同志として

俺にとってかけがえのない
唯一無二の存在だった。


わがままで 傲慢で
人の心を掴むことの下手な俺は
お前の目には
ずいぶんと情けない主君に見えていたことだろう。

それでも 最後までついて来てくれた。
勝てぬ戦と分かっていて
こんな俺に 俺のために……。


許せ、左近――。

あの言葉は お前にとって呪縛だったのか。
俺に仕えなければ お前には
もっと輝かしい未来が待っていたのかもしれぬのに。

「三成に過ぎたるものが二つあり 島左近と佐和山の城」
とはよく言ったものだ。

まったく 世評は驚くほどに正直だ、な……。




左近から殿へ



「三成に過ぎたるものが二つあり 島左近と佐和山の城」か。
そうじゃない。本当は……。
俺に過ぎたものが二つある。石田三成と二万石だ。


――殿。
天下餅、この左近がついて殿に差し上げるつもりでしたが、
どうやら叶いそうにありません。

島左近、力及ばず。
お許しくだされ。


六十余年の生涯、思い残すことは何もない。
よき主に巡り会え、楽しき人生だった――。



どちらも拍手お礼用にアップした詩です。
「左近から殿へ」は8月限定、「殿から左近へ」は9月限定にするつもり。
何かもう、はまればはまるほど悲しいです、この二人。
ネットで検索してみると、結構正統派BL(ってどんな…爆)なサイトさんが多いこのカップリングですが、私的にはちょっと違うなあ、という感じなんですね。
カップルというよりは、やっぱりコンビかな。
うちのサイトには、以前から師弟(孔明・姜維)や同志(歳三・総司)といったコンビが巾をきかせているわけですが、そんな中に新しく主従コンビが仲間入りした、っていう感じです。
ええ、もう、ほんとに、あっけらかんと(笑)。
まあ、もしかしてほんの少しだけ、微乙女風味になるかもしれませんが、土×沖よりもまだあっさり目ではないかと…。(^_^;)


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